第4回神美知宏・谺雄二記念人権賞決定                                                      研究部門 松岡弘之さん                   人権活動部門 架け橋 長島・奈良を結ぶ会に決定

第四回神美知宏・谺雄二記念人権賞選考結果報告

                  神美知宏・谺雄二記念人権賞選考委員会       

研究部門

 松岡弘之著『ハンセン病療養所と自治の歴史』(みすず書房刊)2020年2月刊)

  選考委員会は全員一致で上記研究を「人権賞規定」第5条一研究成果(1)ハンセン病問題の歴史的解明に関する研究に該当する研究と評価して授賞するという結論に至った。」

 〔評価理由〕

若いハンセン病研究者の育成を目的とした人権賞での歴史研究成果の判断にあたっては、先行研究にとらわれない新しい視点の提示とそれがその独自性の根拠となるエビデンスの発掘と再評価によって裏付けられているか、さらには過去から学ぶ今日的意義についてもしっかりとした手掛かりを持ったものであるかという点を検討する必要がある。

 その点で本研究は、これまでの療養所の自治についての研究が療養所の隔離を補完した下請機関という一面を捉えてきたことによって入所者にとっての自治の意義への理解を不十分なものにしてきたこと、また入所者の自治がその理念や権限,分配可能な資源をめぐってしばしば内部対立を抱え危うい均衡の中で担われてきたことを掘り起こす必要があること、そして隔離の施設という厳しい条件の下での自治の試行錯誤の歴史が、今を生きる私たちにとって得がたい教訓を与えていることを謙虚に知る必要があるという著者の姿勢がぶれることなく貫かれている。

 その一例を挙げれば、本研究のフィールドは外島保養院とその跡を継ぐ邑久光明園、そして長島愛

生園に限定されているが、外島保養院は入所者自治の歴史の発祥の場であり、長島愛生園は光田健輔が所長であったという点で本来は対照的な療養所である。しかし本書は外島保養院でのプロレタリア癩者同盟の追放に至る入所者自治をめぐる対立、そして長島事件に至る長島愛生園の自治の歴史について、丹念に資料を求め多様な入所者の考え方のあったことを公正で多元的な視点によってこれまでのステロタイプの研究とは異なる新しい評価を提示している。また、邑久光明園と長島愛生園の戦時下の厳しい飢餓の中での対照的な自治会の姿を比較して、本書は光明園に厳しい評価をしているが、その評価には異論も有り得ようが、決して説得力に欠けるものにはなっていない。そこには「自治の歴史は、そうした療養所とにともに暮らす仲間を思いやる一人一人の苦しみの歴史であり、それを支えた精神の歴史でもあった」と本書の掉尾をまとめた著者が今を生きる私たちに伝えたい本書の思いと重なるところがある。

 

 

人権活動部門

架け橋 長島・奈良を結ぶ会

選考委員会は全員一致で上記活動を「人権賞規定」第5条二人権活動(1)ハンセン病問題における差別・偏見を克服するための諸活動の展開に該当する人権活動と評価して授賞に値するという結論 に至った。

 

 〔評価理由〕

本会の活動は長島が邑久長島大橋によって繋がれていない時代から始まり、今日まで41年に亘って続いている息の長さがまず賞賛に値する。さらにその活動の原点である長島愛生園と邑久光明園の方たちと「おともだちになろう」という想いは療養所の中で続いてきたさまざまな制作活動を療養所の外で発表できる場所が欲しいという入所者の要望に応える形で1982年から2019年まで35回を数える「架け橋美術展」として奈良県内でのハンセン病啓発活動の根を拡げる活動として続いてきた。

残念ながら「架け橋美術展」は療養所の入所者の方たちの高齢化によって作品展示が難しくなったことによって終了したが、同時にいま各地の支援活動と同じく支援者の高齢化もその要因となっているように思われる。ボランタリーに行われる活動を長く続けていくのには、メンバーの新旧交代も必要であるし、活動を始めた時のミッションがしっかりと根付き引き継がれなければ継続することが困難であることは支援団体共通のハードルと言える。

しかし、本会は美術展にカンパや作品の運搬にボランティアで協力する運動会の労働組合、そして美術展を共催した奈良県教育委員会など美術展活動の支援の輪を広げたり、毎年、美術展に足を運ぶ参加者がいたりと、美術展が拡げた啓発活動の成果が、入所の方たちを招く啓発講演会を満席にするなどの地道な動員力を培っている。「『ハンセン病問題』教育交流会」も、今年で9回を数えてこの活動を通しても入所者の方たちと小学生、地域の人たちとの交流の場を拡げて学校教育の場、社会教育の場に美術展終了後の会の活動が確実に引き継がれていることは、各地の支援活動を勇気づけまた示唆を提供していると考えられる。

本会は、家族訴訟のあとに見えてきた啓発の課題に取り組むことを謳っており、支援者も高齢化が進む中で本会が息の長い地道な活動を新しい課題に向けてさらに取り組んでいる姿は支援活動の未来を展望でき、そうした点を今日の特筆すべき人権活動に値すると評価した。