国立ハンセン病療養所に人権擁護委員会の設置を要望する決議

私どもハンセン病市民学会は去る 5 月 9 日、日経ホールで開催された「第 11 回総 会・交流集会 in 東京・駿河」におきまして、参加者の総意に基づいて上記表題のよ うに国立ハンセン病療養所に人権擁護委員会の設置することを貴省に要望する決議を 承認致しました。その理由及び求めている人権擁護委員会の内容は下記の通りです。 私どもは人権擁護委員会の設置は早急に取り組むべき緊要な課題だと認識しており ますので、貴省におかれましても、是非、真剣にかつ早急に設置に向けて取り組んで 頂くことを強く要望致します。

2008 年 6 月 11 日に成立し、翌 2009 年 4 月 1 日から施行された「ハンセン病問題の 解決の促進に関する法律」(以下、「ハンセン病問題基本法」と呼ぶ)は、理念を謳 った第三条1項に、 「ハンセン病問題に関する施策を講ずるに当たっては、入所者が、 現に居住する国立ハンセン病療養所等において、その生活環境が地域社会から孤立す ることなく、安心して豊かな生活を営むことができるように配慮されなければならな い。」と定めている。 そのために、国に責務として、まず第1に「ハンセン病の患者であった者等の福祉 の増進等を図るための施策を策定し、及び実施する」(第四条)ことが求められるだ けでなく、第2に「ハンセン病問題に関する施策の策定及び実施に当たっては、ハン セン病の患者であった者等その他の関係者との協議の場を設ける等これらの者の意見 を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」ことが求められており、施策の 策定と実施に当たって療養所においては入所者を代表する入所者自治会の役割がとて も重要な意義を有している。 しかしながら、療養所の中では入所者の高齢が進むと同時にその人数の減少により、 これまで入所者の意見を代表してきた自治会の機能の低下が避けられない厳しい現状 がすでに存在している。 私たちハンセン病市民学会では、このように、一方ではますます声を挙げられなく なってくる入所者が増えていく中で、他方では入所者の唯一の代表機関である自治会 がその役割を果たせなくなっていく状況を直視し、療養所において将来にわたって入 所者の意見が尊重され人権が守られるために、自治会の役割を支え補完する新たな制 度を設けることが必要不可欠と考え、3 年間かけて交流集会の場で各自治会長や市民 の意見を聴取するなどを通して検討を行ってきた。 入所者自治会のこれまで果たしてきた役割は、じつに多岐にわたっており、こうし た役割を自治会が果たせなくなってきたとき、入所者の療養所の中での日々の生活は 自らの選択の自由を喪ってしまい、園当局の講ずる方策の一方的な受益者でしかない 立場に陥ってしまうことは明らかである。その結果、入所者にとっては療養所の生活 の中で「人間の尊厳」が守られなくなってくることがもっとも危惧されることである。

具体的にその危惧されるべき事例のいくつかを列挙してみる。 ○ 個別の医療や生活援助のあり方は、これからは主に療養所の中のエンド・オブ ライフチームが検討することになるが、このチームの行う方策が入所者にとって 適切な方法が取られているかどうかを入所者の立場に立って検証し、別途の方策

ハンセ ン病市 民学会

- 2 

があるか否かを提言する機関がないと、専門知識のない入所者は相談する存在の ないままに自己決定権を喪失してしまうことが危惧される。 ○ 一般舎から不自由者棟への転居、閉鎖された病棟への入室、外出制限、鎮静な ど、安全・医療の必要性を一方的に園当局が判断し、入所者はその判断を受忍す る立場でしかなくなることが危惧される。 療養所の中での園当局と入所者の関係が危惧したように変容してしまうと、再 び入所者の基本的人権が尊重されないかつての閉ざされた療養所の姿が再現され かねない。入所者の安全や必要な医療措置の選択や療養所内で生じうる医療事故 の検証などは、入所者の立場を尊重した第三者の判断が不可欠となる。 ○ 建物の更新築、入所者の高齢化と減少に伴う施設の集約化、看護職員の再配置、 バス運行等による買い物機会の確保、療養所内に存在する宗教施設の維持・管理、 資料展示室の運営、面会人宿泊所の管理や療養所施設の外部利用の許可、退所者 の入院制度の整備、報道機関の対応など、施設運営のあり方は、これまで入所者 自治会が果たしてきた役割が極めて大きかったものである。 さらに、資料展示室の運営は入所者が療養所の中での生活を余儀なくされた自 らの歴史を後世に残す貴重なものであり、そのあとに列挙した事例も、上記ハン セン病問題基本法の基本理念に謳われた「入所者が、現に居住する国立ハンセン 病療養所等において、その生活環境が地域社会から孤立することなく、安心して 豊かな生活を営むことができる」ことを保証するためになくてはならない入所者 の権利というべきものである。 自治会の果たしてきた役割が弱まるだけでなく喪われることになり、その決定 権が一方的に園当局の裁量に委ねられる事態が現出した場合には、こうした権利 が入所者から奪われることなり、何よりもハンセン病問題基本法の理念が尊重さ れないということに他ならない。 ○ 温泉など入所者が利用する園外施設での利用拒否や宿泊拒否、あるいは演劇、 映画等でのハンセン病への偏見差別を助長する表現など、ハンセン病当事者の人 間の尊厳を損なうさまざまな事象は、これからも皆無であるという期待は残念な がらなお持ちうることができない。これまでこうしたことが生じた際に、入所者 の立場から問題の解決に当たってきたのは入所者自治会である。自治会がそうし た役割を果たせなくなってきた時に、入所者の人権と人間の尊厳を守る役割を担 う組織の存在は不可欠である。

私たちハンセン病市民学会がこれまで検討してきた結論は、上記に列挙した役割を 担う機関の存在が必要不可欠であると同時に、その設置も緊要であることである。 その具体的な在り方は、園内の管理者・医師・看護師・介護者等の他、入所者自治 会等の入所者を代表する組織の推薦する外部の医師・弁護士・ソーシャルワーカー・ その他学識経験者等で組織する「人権擁護委員会」を療養所ごとに設置し、入所者の 人権や運営に関する事項を協議する制度を設け、その招集の在り方のルールを決め、 必要に応じて委員会の判断を求め、園当局はその判断を尊重して方策を決定すること が適当と考え、私たちは素案をまとめた。 この度、私たち市民学会の素案を下に、全療協、全原協、国賠訴訟弁護団、ハンセ ン病市民学会等によって構成される「ハンセン病療養所の将来構想をすすめる会」に おいて最終案が取りまとめられた。

本決議は、以上の経緯に基づき、上記の通り、ハンセン病市民学会第11回交流集 会に集まった広範囲の参加者の総意の下に、厚生労働大臣に最終案に基づき各療養所 に人権擁護委員会を早急に設置することを強く要望することが決議されたものです。 私たちはこれからも、「人権擁護委員会」の必要性について、国民各位に広く訴え ていく努力を傾注するところでありますが、厚生労働大臣におかれましては、ハンセ ン病市民学会に集った様々な立場の参加者の総意を是非、尊重して頂くよう要望致し ます