ハンセン病家族訴訟熊本地裁判決に対する声明

ハンセン病家族訴訟熊本地方裁判所判決に対する声明

                       

2019628日、熊本地方裁判所は、国の隔離政策が、ハンセン病患者のみならず、その家族に対しても、差別や偏見、家族関係の崩壊など多大な被害を与えるものであったとして、国の責任を認める判決を言い渡しました。

判決では、国が実施した隔離政策により、ハンセン病家族が大多数の国民らによる偏見差別を受ける一種の社会構造を形成し、差別被害を発生させたこと。またハンセン病患者を療養所に隔離したこと等により、家族間の交流を阻み、家族関係の阻害を生じさせ、これらの差別被害は個人の尊厳にかかわる人生被害であり、生涯にわたって継続しうるもので、その不利益は重大であり、ハンセン病家族にも隔離政策を遂行してきた国は、偏見差別を除去する義務を、ハンセン病患者の家族との関係でも負わなければならないと、認めました。

そして、隔離政策に対する厚生大臣、国会議員の責任を認めるだけでなく、らい予防法廃止後にも厚生大臣・厚生労働大臣、さらには、人権啓発活動を所掌する法務大臣、学校教育・社会教育を担う文部大臣・文部科学大臣が、差別偏見を除去するための義務を怠ったとして、違法性、過失を認めました。また厚生大臣・厚労大臣が負う偏見差別除去義務の一つとして、被害者に対する謝罪が必要であったことにも言及しました。

これらのことは2001年熊本地裁判決を踏襲し、さらに踏み込んで責任の所在、不作為の中身を具体的に示した、原告の思いが届く内容であると受け止めます。

一方で、この判決が認めた国の責任は、1960(沖縄は1972)から2001年までで、施政権返還前の沖縄における被害について国の責任が認められませんでした。また、2002年以降の責任は否定され、請求が認められない原告が生まれてしまいました。さらに認められた賠償額も、550万円の賠償請求に対し、33万円から143万円というものでした。この額は、包括一括請求という裁判の手法から、やむを得ないものなのでしょうが、家族が被った人生被害の甚大さに比して、あまりに低いものであると言わざるを得ません。

このような問題を抱えることも認めたうえで、私たちハンセン病市民学会は、この判決を、今後のハンセン病問題の全面解決に向けた大きな力となる、画期的判決と受け止め、国に対して、控訴することなく判決を確定さすことを強く求めます。

そして、あらためて、原告がほとんど匿名であるというこの裁判の現実を見据え、裁判に参加していない人も含め、全ての家族被害者が心の底から納得できる解決に向けて、立法、行政の責任を遂行されるよう要請します。そのことはまず、隔離の被害者の声を直接聞き、その声に真摯に向き合うところから始まるのではないでしょうか。

また、今回の家族訴訟は、私たち市民の隔離政策への加担を強く問いかけるものでした。予防法廃止以降の人権啓発、教育に関わる取り組みの不作為という問題も、自らの足元を見つめなおしていかなければならない課題です。この判決を大きな機縁として、一人ひとりが、ハンセン病問題を自らの問題として受け止めなおし、真の解決に向けて、新しい一歩を踏み出す決意を新たにして、ハンセン病市民学会の声明といたします。

                         

                                    201975

 

                                     ハンセン病市民学会